2025/10
 
 
 
 
 
 
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急性咽頭炎・扁桃炎の治療- 抗菌薬適正使用の立場から -

はじめに…

小児科外来において咽頭炎・扁桃炎患者は比較的多数を占めています。多くは発熱を伴い、「咽が赤いね。」と言われしばしば抗菌薬が処方されます。しかし、実際はその多くがウイルス感染によるものであり抗菌薬は無効です。抗菌薬の適応となるのはA群B溶連菌感染症(groupA B-hemolytic Streptococcus、以下GABHSと略)だけであり、A群溶連菌迅速検査キット(以下、迅速結果と略)で容易に診断可能です。筆者らは小児上気道炎に対する抗菌薬適正使用ガイドラインを提案し、咽頭炎・扁桃炎についても詳しく論じました1)。本稿ではこの趣旨にそった病因、診断、治療について解説します。

 

1. 急性咽頭炎・扁桃炎の病因 

急性咽頭炎・扁桃炎における細菌感染の関与はそれほど多いものではありません(表1)。A Puttoは小児の滲出性扁桃炎の原因について110例の患者の原因検索を行い、ウイルスが42%、B溶連菌が31%(そのうちA群は12%)、マイコプラズマが5%、不明が35%であったと報告しました2)。Espositoらは急性咽頭炎の患者127人、およびそれらと年齢、性がほぼ同様な正常者130人について、ペアサンプルの血清学的検査、鼻咽頭分泌物のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、咽頭培養を行い、比較対照する形で病原体の解析を行いました。その結果、咽頭炎の患者から化膿連鎖球菌(S.pyogenes、GABHS)が単独で6例(4.7%)、ウイルスの混合感染で15例(12%)、肺炎マイコプラズマなどとの混合感染で3例(2.4%)検出されたのに対し、健康対象者からは単独で21例(16.2%)も検出されました。以上から咽頭培養で検出された菌は起炎菌なのか単なる保菌状態なのか区別することは困難であると報告しています3)。 

またウイルスについてはアデノウイルスが患者から混合感染を含めて34例(26.8%)検出されたのに対し、健康者からは4例(3.1%)、RSウイルスが患者から27例(21.3%)に対し、健康者からは1例(0.8%)、肺炎マイコプラズマが25例(19.7%)に対し、健康者からは3例(2.3%)であり、この3病原体が主な原因と結論しています。その他にパラインフルエンザウイルス6例、B型インフルエンザ5例、EBウイルス2例、肺炎クラミジアが混合感染を含めて17例が検出されたと報告しています3)。 

武内らは筆者の診療所も含む他施設における偽膜を有する滲出性扁桃炎149例の病原体調査を報告し、56%で病原体が明らかになり、そのうち75%でウイルスが分離され、30%で溶連菌(GABHS)陽性でした(重複4例)。ウイルス陽性の75%はアデノウイルスで、次いでエンテロウイルスが13%あり、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルスが検出され、溶連菌以外の細菌の関与はまれと結論づけています4)。

以上のように急性咽頭炎・扁桃炎における細菌感染の頻度は多いものではなく、多くはウイルス感染であり、数日の内に軽快治療します。医師は抗菌薬投与をいそぐのではなく、丁寧な診察や検査、経過観察を行い、その適応があるかどうか吟味すべきと思われます。

 

2. 急性咽頭炎・扁桃炎の診断 

咽頭、扁桃は日常の診療で容易に目視可能であり、本疾患を診断することはそれほど困難ではありません。発熱や咽頭痛、あるいはそれに関連する症状が主となり、明らかな咽頭の発赤、扁桃の発赤と腫大、膿性滲出物の付着を認めれば急性咽頭炎・扁桃炎と診断できます。最も重要なことはGABHSによるものかどうかを鑑別することなのです。3歳以上の発症、強い咽頭痛、著明な咽頭・扁桃の発赤、腫脹、軟口蓋の充血や出血斑、苺舌、特徴的な発疹などはGABHSを強く示唆するものです。経験を重ねれば臨床症状、所見だけで相当程度に鑑別できるようになりますが、抗菌薬投与の適応を決定するときは、確定診断のために咽頭培養、あるいは迅速検査が必要です5.6)。しかし、このような検査はすべての咽頭、扁桃炎患者に日常的に行う必要はありません6)。多くはウイルス感染によるものであり、症状や所見、あるいは既往歴、家族歴、流行状況などを勘案しGABHSの可能性が低ければ、家族に咽頭・扁桃炎の原因や症状についてよく説明し、検査をいそがずに注意深く経過を観察することも重要です。重症例、あるいは症状が持続する場合は、迅速や培養検査、あるいは血液検査などを行い、GABHSが認められたなら抗菌薬治療を行います。診断、および治療のアルゴリズムを図1に示します。 

小児科の外来においてはGABHS以外の細菌の検出される頻度は希であり(表1)、保菌状態との区別も難しく臨床的意義は少ないと思われます7)。 

咽頭炎・扁桃炎の原因病原体としてもっとも多いのはアデノウイルスです。典型的な咽頭結膜炎や偽膜をともなう滲出性扁桃炎の場合は臨床的に診断できますが、特徴的な症状・所見をしめさない非典型例も多いと言われています。アデノウイルス感染症はしばしば40℃以上の高熱となり、その期間も4~5日と長くなる場合が多く、白血球数増多やCRPの高値も認められ、occult bacteremiaとの鑑別が必要となる場合もあります1.8)。診断には迅速検査が有用です。2001年に検査キットが市販され、アデノウイルスの診断が容易となりました。この検査は抗菌薬の使用を抑制するだけでなく、保護者に病気の見通しを伝えることで不安の解消につながっています。検査の感度は70~94%と報告され、陰性であっても感染を完全に否定できませんが、特異度は100%に近いので、陽性であればアデノウイルスによると診断できます9)。 

EBウイルス感染による伝染性単核症は著明な偽膜性扁桃炎に加え、高熱、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫をともなうことが多く、このような症状・所見を現している患者には血算やEBウイルス抗体価の検査を行う必要があります。コクサッキーウイルス感染症は夏に流行し、軟口蓋に直径2~3mmの潰瘍を伴うことが多いと言われています。また、単純ウイルス感染症では一般に歯肉が発赤腫脹し、口腔粘膜や舌にアフタが見られます1)。


3. 鑑別診断;咽後膿瘍と扁桃周囲膿瘍 

この二つの疾患の頻度は少ないですが、診断の見落としは重篤な結果を招きかねないので丁寧に注意深く診断することが必要です。 

咽後膿瘍は3~4歳までの男児に最も起こりやすく、発熱・経口摂取減少・流涎、といった非特異的な症状に加えて、項部硬直、斜頸、頚を動かさない、喘息、呼吸障害といった症状・所見に注意が必要です。診断にはCTが必要であり、本症が疑われたら直ちに検査を行える医療機関に紹介する必要があります。 

扁桃周囲膿瘍は青年期に多い疾患です。強い咽頭通や発熱、摂食困難などの症状に加え、扁桃の左右非対称の膨隆とそれによる口蓋垂の偏位が認められれば本症を疑います。確定診断にはCTが有用です10)。

 

4. 急性咽頭・扁桃炎の抗菌薬治療 

先に述べたように急性咽頭炎・扁桃炎の多くはウイルスによるものであり、一律的な抗菌薬投与を行うべきではありません。細菌による場合でもGABHS以外の頻度は少なく、また単なる保菌状態との鑑別が難しいこと、抗菌薬の有用性が確認されていない、リウマチ熱などの合併症を起こすことはないなどの理由から、実際上、小児外来において抗菌薬治療の対象となるのはGABHSによる咽頭炎・扁桃炎だけと考えてよいとされています1.3.7.11.12)。 

GABHSに対する抗菌薬治療の目的は、臨床経過を短縮し、他人への感染症を減らして早期の社会復帰をはかること、扁桃炎周囲膿瘍や咽後膿瘍などの化膿性合併症を防ぐこと、そしてリウマチ熱(以下、RFと略)の発病を予防することです1.7)。RFの発病予防に対する抗菌薬の有用性については、1949年にアメリカの軍隊で行われた無作為比較試験が根拠になっています13)。しかし、米国や英国、本邦などの先進諸国ではGABHSによる咽頭・扁桃が依然として多く発症しているにかかわらず、RFの発症数は激減しています。一方、発展途上国では依然として高い水準にあります。これは抗菌薬や診断技術などの医学的な介入だけでは説明がつかなく、その発症要因として衛生環境や居住空間、菌の病原性の変化や遺伝子的要因が検討されてきました。近年では患者の栄養状態がRFの発症に大きく関与しているとの説が提案されています14)。 

早期の抗菌薬投与が、溶連菌感染後糸球体賢炎(PSGN)の発症の危険性を少なくするという明らかな根拠はありません。 

GABHSはほとんどの抗菌薬に対して良好な感受性を示していますが、治療の安全性、有効性、費用、そして抗菌域が狭いという理由から、国際的にもベンジルペニシリンベンザチン(DBECPC-G、バイシリンGR)、3~5万U/kg/日(上限150万単位)分2~3、10日間、また、フェネシチシリンカリウム(シンセペン錠R)4~6万U/kg/日(上限200万単位)分3~4、10日間が第一選択となります1.11.12)。多くの医師はこれらの薬剤になじみはないかもしれませんが、筆者の診療所では10年以上前より用いており、ほとんどの患者において服薬のコンプライアンスもよく、服薬後24時間以内に解熱し速やかな症状の軽快が得られることを確認しています。 

欧米の推奨治療にはベンザチンペニシリンの1回筋注療法も含まれていますが、本邦で行うことは難しいと思われます。セフェム系抗菌薬も治療効果はありますが、抗菌域が広く耐性菌を産み出しやすいため、GABHSの治療薬としては勧められません。Bラクタム剤アレルギーのある場合は、エリスロマイシン(EM、エリスロシンR、30~50mg/kg/日 分3、10日間)が第2選択となります。 

一般的に通常のGABHSの咽頭・扁桃炎患者の家族や身近な接触者に対して、培養検査や無症状の保菌者に対する抗菌薬治療の必要はありません。通常のGABHSによる咽頭・扁桃炎の患者においては、規定の抗菌薬治療を受けた患者は除菌確認のための咽頭培養は行う必要はありません。しかし、数週以内に咽頭・扁桃炎発症した場合には迅速検査や培養を行う必要があります。GABHSが陽性であれば通常のペニシリンを用いた抗菌薬治療を行います。このようなエピソードを頻回に繰り返すようであれば、保菌状態でウイルス感染を繰り返していることもあり、慎重に鑑別する必要があります。このような保菌者に対する継続的な抗菌薬による予防療法は、リウマチ熱の既往をもっている患者以外は必要ではありません。また家族内でお互いにうつし合うというピンポン感染が疑われれば、家族全員の培養検査を行う必要があります11)。また患者や保護者には麻疹やおたふくかぜのように1回罹患すれば一生免疫ができるというものではなく、繰り返し罹患することもあり得ることを説明しておくことも必要です。 

(本論文は「感染と抗菌薬」8巻4号に投稿した「急性咽頭炎・扁桃炎―抗菌薬を使うべきとき、私の処方―」を一部修正、改訂したものです。)

 

 

参考論文 

1)吉田均 他:小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン―私たちの提案―外来小児科8:146-173、2005

2)A.Putto;Febrile exudative tonsillitis:viral or streptococcal? Pediatrics 1987;80(1):6-12

3)Esposito S.et al;Aetiology of acute pharyngitis:the role of atypical bacteria J Med Microbiol 53:645-651、2004

4)武内一;滲出物を伴う扁桃炎の臨床―ウイルス分離と細菌培養、検査所見と臨床経過の149例のまとめ、扁桃炎の正体は何なのか?―第15回日本外来小児科学会年次集会 WS15「小児外来の感染症を考える」口演 

5)絹巻宏;溶連菌迅速検査を楽しむ 外来小児科;5:70-72、2002

6)McKerrow W,et al.;Management of sore throat and indications for tonsillectomy.A National Clinical Guideline.SIGN Publication 1999;34:1-23

7)Bisno A L;Acute Pharyngitis N Engl J Med;344:205-211、2001

8) 武内一;アデノウイルス3型感染症―臨床症状・検査データと流行拡大の特徴―.日児誌1998;102:666-671

9)原三千丸,他.アデノウイルス迅速診断キットチェックAdR改良品の有用性の検討、小児科臨床2005;58:221-223

10)Pappas DE and Hendley JO;.Retropharyngeal Abscess,Lateral Pharyngeal (Para-pharyngeal)Abscess,and Peritonsillar Cellulitis/Abscess.In:Behrman RE,et al,eds.Nelson Textbook of Pediatrics.17th ed.Philadelphia:Saunders,2004:1393-1394

11)Bisno AL et al;Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Group A Streptococcal Pharyngitis Clin Infct Dis 2002;35:113-125

12)Schwarts B et al;Pharyngitis;principles of judicious use of antimicrobial Agents Pediatr 1998;101:171-174

13)Denny FW ,et al.Prevention of rheumatic fever ;treatment of the preceding streptococcic infection.JAMA 1950;143:151-153

14) 吉池信男、Mostafa ZM ;リウマチ熱と栄養―発展途上国におけるリウマチ性心疾患の征圧のために― 栄研スタッフによる解説論文集 2002 独立行政法人国立健康・栄養研究所