ここでは私のlクリニックで実際に経験した患者の経過や症状、治療について具体的にのべて、このような場合にどのような治療やケアをしたら良いか、分かり易く解説したいと思います。少しずつ実例を増やして行きたいと思います。皆様のお役に立てば幸いです。

こんな時はどうするの?

寝ている時、いびきがひどく、ときどき呼吸が止まります。     大きくなった扁桃腺やアデノイドを手術でとる必要があります。

5歳 男児  2015年1月

1ヶ月前から鼻づまりの症状がひどくなり、耳鼻科を受診したところ、でアデノイドと言われました。いびきがひどく、息を吸うと胸がへこむほどです。睡眠中に呼吸が止まることもあり、苦しくなって泣くこともあます。最近、頻回にトイレに行くようになり、また今までなかった夜尿をするようになり、食慾も無くなり体重が増えなくなりましたといって受診されました。診察しますと、鼻粘膜が白く腫れていて、大きくなった扁桃腺が認められました。胸部は異常はありませんでした。アデノイド、扁桃腺腫大による高度の上気道の狭窄(狭くなっていること)と診断し、大学の耳鼻科に紹介しました。

大学病院でアデノイドと扁桃を摘除手術を受けました。医師もびっくりするほどの大きさで、この年齢でこれほど大きいものは見たことないといわれたということです。いびきや胸のへこみも無くなり、食慾も増えて、体重が13kgから16kgになった。夜もぐっすり眠れるようになりました。無呼吸発作や頻尿もなくなり、朝までぐっすり眠れるようになりました。

コメント:小児で睡眠中にいびきがひどい、呼吸がときどき止まるなどの症状があれば、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。放置しますと学力の低下や低身長、肥満、夜尿症の発現などをすることもあります。多くはアデノイドや扁桃腺の肥大によるもので、手術によって症状は著明に改善します。早めに小児科、あるいは耳鼻科医にご相談ください。

熱が高くなったので脇の下に氷嚢をあてたけど下がらなかった   発熱は体の免疫力をアップして早く治そうとするもの、保温が基本。

10ヵ月の男児 201412

2日前の夜中に38℃の発熱、昼になって38.2℃、夜も熱があったので脇の下に氷嚢を入れようとしたが嫌がってだめだでした。夜中にまだ熱があり、ぐっすりと寝入ったので今度はうまく入れられました。しかし朝には39.6℃になり、かえって高くなったということで受診しました。上のお子さんが高熱が出たときに、お医者んから脇の下に氷嚢をいれて冷やすようにと指導されていたということです。

診察しますと機嫌もよく、咽や胸に特別な所見もありませんでしたので、解熱剤や風邪薬などは処方しないで、安静保温で経過観察するように言いました。そして体温が上昇すると体の免疫力(体に侵入してきたウイルスや細菌などの病原体を排除する力)が10 20 倍も強くなること、逆に病原体は弱くなることを説明し、体を冷却するより保温が大事と説明しました。またいわゆる風邪薬には病気を早く治す働きはなく、場合によっては体の免疫力を妨げることもあり、できるだけ使用しないことが望ましいとも説明しました。2日後に再診されましたが、熱が下がって発疹がでたということでした。突発性発疹でした。

コメント:多くの場合、熱がたかくなると医師からは「体を冷やしなさい。」、「衣服を緩めて薄着にして熱が放散するようにしなさい。」、「38.5℃以上のときは熱冷ましを使いなさい。」と指導されることが多いと思います。熱が高いのは異常な状態、だから熱を下げるのは正しい、あるいは必要なことだという考えです。果たしてそのような考え方は正しいでしょうか。

 風邪をひくということは、体にウイルスや細菌などの病原体が侵入してきて、体の中で細胞を破壊しながら増殖するのです。体にとっては大変危機的な状況です。国家に例えてみると、強力な武装集団が侵入して破壊活動を行っているということです。当然、政府は自衛隊や警察組織を動員して、特別は迎撃、警戒態勢をとります。つまり非常事態には特別な態勢をとる必要があるということです。風邪などで発熱するのはこのような特別な態勢の結果であり、むしろ必要なこと、当然なことなのです。ですから熱を下げるような処置や薬剤の投与は正しくなく、むしろ危険なことなのです。風邪で熱が出ているときは、安静にし保温に心がけることが大切です。

湿疹がひどくなった  まず適切なスキンケア、改善しなければ短期間のステロイド軟膏使用、改善したらまたしっかりとしたスキンケア

5ヵ月男児 201412

 9月末、生後4ヵ月のときに湿疹がひどくなったといって来院されました。石けんの使用をやめて、ワセリンを処方して全身的に塗布するようにし指導しました。4日後にさらにひどくなったといって来られました。全身に皮膚炎が広がっており、アトピー性皮膚炎と診断し、ステロイド軟膏(顔用にキンダベート軟膏、体、四肢用にネリゾナ軟膏)を処方しました。4日後、皮膚炎は著明に軽快していました。ステロイド軟膏を止めて、ワセリンの全身塗布を励行するように指導しました。11月末に受診されましたが、湿疹はわずかにあるだけでした。その後はステロイド軟膏は使用していないということでした。石けんを使用しないで、ワセリンでスキンケアをやっているだけということでした。

コメント:湿疹やアトピー性皮膚炎は本人も保護者も悩ませる厄介な病気です。従来はステロイド軟膏をしっかりと使うようにと指導されることが多いと思われます。しかしステロイド軟膏は皮膚の炎症は抑えるものの、湿疹やアトピー性皮膚炎の原因であるバリア機能(細菌や化学物質などが体に侵入することを阻止する機能)を強めることはありません。むしろ弱体化することに作用します。ですから長期間使用すると皮膚バリア機能の低下をもたらし、炎症も抑えきれなくなり、皮膚炎が一気に悪化する、いわゆるリバウンド現象を起こします。このお子さんのように、ステロイドは短期間の使用にとどめ、一旦皮膚炎が落ち着いたら、後は徹底的な保湿を行うことでよい結果が得られています。石けんで体を洗うことは、皮脂を洗い落とし、角質層を痛め、バリア機能を弱体化しますので、絶対に行ってはいけません。

RS感染症で鼻水、咳、発熱が続いている        検査をして二次感染症を確認、抗菌薬を処方

8ヵ月女児 201411

2日前から鼻水、咳が出て今朝から発熱38.5℃がでたということで受診されました。3歳のお姉さんが風邪をひいて中耳炎になっているということです。お父さんは喘息をもっています。

診察しますと咽は赤くなっていましたが、耳の鼓膜や胸部には所見はありませんでした。RSウイルスの迅速検査をおこなったところ陽性でした。オノン、デカドロンエリキシル(ステロイド剤)、ムコダインとムコソルバン(去痰剤)を処方しました。2日後に受診されましたが、37.339℃の熱と咳が続き、元気がなくなったと再診されました。呼吸困難があり、両耳の鼓膜は発赤、腫脹し急性中耳炎の所見がありました。血液検査では白血球;13,400/μL、と中等度増加、CRP;1.4mg/dlと軽度上昇を示していました。RS感染に合併した二次性の細菌感染症と診断、ワイドシリン2g/日を処方しました。同日夜は39.7℃、その翌日は38.7℃、翌日は36.7℃と解熱しました。鼓膜所見も改善、呼吸困難も治まっていました。さらにワイドシリンを3日分処方しました。

コメント:以前は子どもがかぜで熱が出ている、あるいは鼻水と咳がひどいというだけで普通に抗生物質を処方していました。早めに抗生物質を飲ませておけば、早く病気は治る、あるいは肺炎や中耳炎などを予防できると信じられていたのです。しかしそのような効果がないことが明らかになりました。子どものかぜは大部分がウイルス感染症なので自然に治ります。そのため抗生物質等の薬は本来必要のないものです。しかしこの例のように、1歳未満のRSウイルス感染の場合、肺炎や中耳炎などの二次感染が起こることがあります。この場合は抗生物質が必要になります。私はこのような患者さんは注意深く診察し、また血液検査を行って細菌による二次感染の合併かどうかを慎重に判断して抗生物質を処方しています。予防的な処方、念のための処方、親を安心させるため(あるい自分が安心したいため)の処方は極力行わないようにしています。

鼻水、咳、高熱(39.6℃)がでた       検査をしてありのままの診療情報を提供

8ヵ月男児  201411

3日前から鼻水、咳が出て、今日から38.6℃の熱が出たということで受診されました。診察ではとくに所見はありませんでした。RSウイルスの検査は陰性でした。薬を処方せずに安静保温で経過をみるように言いました。その後、38.4~39.6℃の高熱が続いているということで3日後に再診されました。特別な所見はありませんでした。アデノウイルス検査は陰性、血液検査は白血球が8,100/μlCRP;0.3mg/dlと正常でした。肺炎や重症の病気はなさそうなので、安静保温でようすをみるように言いました。お母さんには,今までの経過と検査結果、診断とその根拠を記したカルテのコピーを渡しました。その翌日に熱が下がって発疹が出ました。結局、突発性発疹でした。

コメント;咳も出て高熱が続きますと母親は大変不安になります。小児科の外来ではこのようなお母さん方の不安をどのように軽くしてやるかが重要な課題になります。かつては解熱剤と抗生物質の筋肉注射が行われました。確かにすぐに熱が下がりましたが、多くの筋萎縮の患者が出ました。その後は、幅広い菌に有効な抗生物質の開発が行われ、さかんに小児科で処方されましたが、重症の病気を予防、あるいは治療する効果がないことが分かりました。その反省のうえに、世界の趨勢から遅れること20年でヒブワクチン、10年遅れて肺炎球菌ワクチンが行われるようになったのです。髄膜炎や菌血症などの重症の病気が激減しました。

 私はお母さん方に子どもを重症の病気から守るためにはワクチンが絶対必要なこと、そして高熱が出た場合にはできるだけ迅速検査や血液検査を行い、その原因を明らかにするようにし、そしてその結果と診断根拠を記録したカルテのコピーお渡しするようにしています。

 「薬より分かり易い情報を!」を何より大事にしています。

鼻水、咳が出て、今朝から38.3℃の熱が出ました        感冒、安静保温で経過観察。

1歳男児   201411

昨日から鼻水、咳が出るようになり、今日から38.3℃の熱が出たということで受診されました。比較的機嫌もよく、それ以外の症状はないということでした。

診察しますと、咽や耳(鼓膜)、胸に特別な所見はなく、感冒と診断し、安静保温で経過観察するようにといって、とくに薬は処方しませんでした。

コメント:感冒(かぜ、かぜ症候群、上気道炎など)は小児科ではもっとも多い患者です。鼻水、咳、熱がでますので、お母さん方は「なにかお薬をください」といって来院されます。しかしこのような症状を薬で抑えるのは本当にいいのでしょうか。

 かぜの病原体はほとんどがウイルスです。そのウイルスは鼻から体に入り、鼻の中(鼻腔)や咽頭、気管、気管支の粘膜の細胞にとりついて、細胞を破壊しながら増殖、奥へと侵入し、ひどければ肺炎を起こします。私たちの体、そして免疫細胞はそうはさせじと防御態勢をつくります。

 鼻水、鼻づまりは新たな病原体の侵入を防ぐためのものです。咳は気管や気管支で生じた分泌物(痰)を病原体と一緒に吐きだして、気道(呼吸をするときの空気の通り道)をクリーニングするためのものです。発熱は体の細胞の働きを活発にし、病原体をやっつける免疫細胞をパワーアップするものです。すなわちかぜ症状は、本人を苦しめるものではなく、病原体の活動を抑え、早く病気を治すために、体が積極的に創りだしているものと言っていいのです。

 ですから私は、かぜ症状の患者さんにはなるべく薬は処方せずに、安静保温で様子をみなさいということにしています。

熱もないのに鼻水と咳が続く        アレルギー性気管支炎

3歳 女児 201411

9月の半ばから熱もないのに鼻水、咳が出で続いているということで受診されました。両親が花粉症をもっているということでした。診察しますと、咽も胸もとくに異常はありませんでしたが、鼻粘膜は腫れて白っぽい表面をしていて、少し半透明の鼻汁が認められました。

アレルギー性気管支炎と診断し、オノン(抗ロイコトリエン薬)と去痰薬のムコダイン,ムコソルバンを5日分処方しました。症状は数日で治まりました。11月はじめになって同じ症状がでたということで再診されました。同じ薬をだして、やはり数日で軽快しましたが、薬を飲んでいると調子よいということで、今回の3回目の受診では14日分を処方しました。

コメント:「熱もないのに鼻水、咳が続く」、「熱が出た後、鼻水と咳がなかなか良くならない」、「時々夜に喘鳴が出る」ということで受診されるお子さんがいらっしゃいます。喘息ほどの呼吸困難はありませんが、長引く咳は本人家族も困らせます。このような場合はほとんどが、家族(両親や兄弟、時には祖父母)の誰かに花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患をもっていて、また本人も湿疹やアトピー性皮膚炎があり、アレルギー性素因を有していることが分かります。このような患者さんには当院ではオノンや去痰薬を処方してよい効果を得ています。強い咳発作を起こす場合は、咳喘息としてステロイド吸入薬を処方します。症状が出易いお子さんには2週間、4週間の長期投与をして良い効果を得ています。

短期間に発熱と咽頭痛を繰り返す      溶連菌感染症

13歳 男子  初診 201411月 

先月末頃から発熱、咽頭痛を繰り返すようになりました。近所の内科でお薬をもらうとすぐ良くなるのですが、3〜4日ほどするとまた同じ症状が出るということで、3回目の発熱で当院を受診されました。

診察しますと、扁桃腺が赤く腫れて白い膿のようなもの(白苔、あるいは偽膜)が付着していました。溶連菌迅速検査を行ったところ、明らかな陽性反応が得られました。抗菌薬を10日分処方しました。

コメント:溶連菌感染症は学校や保育園、幼稚園などの集団生活でお互いにうつし合って流行することがあります。また家族同士でもうつることがあります。発熱と咽頭痛が主な症状ですが、発疹や嘔吐、リンパ節腫脹をともなうこともあります。溶連菌は薬がよく効くので、3〜4日間ほど飲むとすぐ症状がとれますが、それで止めると再発します。この患者さんのように、薬を飲むと直ぐよくなりが、また同じ症状を繰り返すという場合は、まず第一に溶連菌感染症を疑います。

 そして再発を繰り返すとまれに急性腎炎やリウマチ熱という病気を合併することがあります。ですから溶連菌感染症と診断された場合には、しっかりと10日間服用する必要があります。この場合、できるだけペニシリン系の抗菌薬を処方してもらってください。服用終了後、腎炎の合併がないかどうか診るために尿検査を行います。

元気はあるのに高熱がなかなか下がらない         アデノウイルス感染症

4歳男児  初診 201411月 

10日前から鼻水、咳が出ていました。前日朝から高熱39℃以上の熱が出て、今日は朝は38.8℃になっていたが、夕方に39.9℃になったということで受診されました。咳は出ているが、本人は元気そうでした。

診察しますと咽と扁桃腺がわずかに赤くなって少し腫れているだけでした。血液検査をしますと白血球が12,300(正常は350010,000)、CRP;4.0mg/dl(正常は0.00.6mg/dl)でした。肺炎と診断し、抗菌薬のワイドシリンを処方しましたが、翌日の午後になっても38.2℃の熱があるということで再診されました。そこでアデノウイルスの迅速検査を行なったところ陽性になり、アデノウイルス感染症と判明し、抗菌薬を中止して様子みることにしました。翌日から少しずつ熱がさがってきました。

コメント:アデノウイルス感染症は、小児科の外来では比較的多い疾患で1年を通してよく受診されます。3940℃以上の高熱が続くことが多く、子どもではその割に元気があることが多いようです。通常、扁桃腺が赤く腫れ、白い膿をもったように見え(白苔と言います)、あたかも細菌性の扁桃炎のようみえます。眼が赤く充血することもあり、この場合は咽頭結膜熱と診断されます。プールなどで流行することもあり、夏に多数の患者がでたりして「プール熱」と言われることもあります。

高熱が続くため血液検査をされることが多いですが、血液の白血球増加があり、炎症反応のCRPも高くなるため、この患者さんのように肺炎や菌血症などと診断され、抗菌薬を処方されます。この患者さんの場合も、アデノウイルス迅速検査を併用すれば、不必要な抗菌薬の処方は避けられました。

アデノウイルスは多数の血清型があり、何回もかかることがあります。また下痢が主な症状の胃腸炎や、流行性角結膜炎などの病気も起こします。

熱が高くて辛そう                  グリセリン浣腸が奏功

11ヵ月男児 201411

2日前から38~39℃の熱が出ていて、今日も38℃になっていて、とても辛そうなので「熱冷ましを使った方がよいでしょうか」といって来られました。排便は2日間ないということです。熱以外は余り症状はないということです。

診察しますと、咽が少し赤いだけで他の所見はありませんでした。血液検査では白血球は5,900と正常、CRP;0.1mg/dlと正常でした。

グリセリン浣腸30mlを行ったところ、大量の排便が出てずいぶん楽なりました。

この翌日に熱が下がって発疹が出ました。結局、突発性発疹でした。

コメント:熱が高くて機嫌が悪い、夜寝てくれないなどの訴えはよくあります。こんなときは私はお母さん方によく浣腸をすることを勧めます。また診療所でも熱が出て、頭が痛い、お腹が痛い、機嫌が悪いという患者さんには、すぐに浣腸をしてよい効果を得ています。

発熱は病気が治るためにとても重要なものです。熱が高ければ高いほど、体の免疫細胞が病原体(ウイルスや細菌など)をやっつける力(免疫力)が強くなり、逆に病原体は弱くなって病気は治癒に向かうのです。ですから安易には熱冷ましを使わない方がずっと良いのです。頭痛が痛み、不機嫌が強いときはぜひ浣腸して排便させてください。市販のイチジク浣腸が大変便利です。