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抗菌薬の適正使用

特集 小児科の魅力:子供の総合診療

 

はじめに ―なぜ、抗菌薬適正使用か?― 

抗菌薬適正使用を考えるとき、筆者は最近映画化もされたJ.R.Rトールキンの「指輪物語」を思う。 

世界を破滅させるほどの魔力を秘めた指輪は、その威力を永遠に封じるために勇敢なホビット族の若者が旅に出て、数々の困難に打ち勝って目的を遂げるというものである。この物語はわれわれに、力あるものを使う時こそ愛と叡智が必要であることを教える。抗菌薬も人類が手にした最も力のあるものの一つである。ここでは、これをどのように使うべきか、筆者らの考え方を提案したい。

 

Ⅰ.わが国における耐性菌の現状と抗菌薬使用の実態 

わが国においては急速に耐性菌が増えている。島田ら1)は最近の5年間で外来診療の感染症においていいPRSP(penicillin-resistant S pneumoniae、ペニシリン耐性の肺炎球菌)は、 2.7%から19.1%に、BLNAR(B lactamase non-producingampicillin-resistant、B lactamase非産生ABPC耐性)インフルエンザ菌は9.6%から32.3%と著しく増加したと報告した。砂川ら2)は全国の医療機関から寄せられた化膿性髄膜炎の起炎菌について調査し、肺炎球菌では82%がPISP (penicillin-intermediate S.pneumoniae、ペニシリン中等度耐性肺炎球菌)やPRSPなどの耐性菌、インフルエンザ菌では78%がBRNARなどの耐性菌によって占められ、予後不良例や治療困難例が増加し、しかも年次的推移をみると急速に耐性菌の占める割合が増加していると報告している。このような耐性菌の増加は、外来における抗菌薬使用と密接に関係していることがわかった3)。 

筆者らは日本外来小児科学会の会員を対象として、上気道炎診療の実態調査を行った4)。 

医療機関ごとに抗菌薬処方率を算出し、5%ごとのヒストグラムを作成すると、最も多かったのはほぼすべての患者に処方するという処方率95~100%の21人、13%だった。これを発熱患者についてみると最多は95~100%の58人、 37%であった(図)。わが国における抗菌薬使用の実情の一端を示しているといえる。

 

Ⅱ.抗菌薬、使用すべきか、待つべきか? 

筆者らは耐性菌の蔓延を防ぐためにより慎重で厳密な抗菌薬使用が必要と考え、以下の基本原則を基にして小児上気道炎抗菌薬使用ガイドラインを提案し、外来小児科に掲載、ネット公開もしている5)。 

ここにはその要約を表にして示す。根底にあるのは「抗菌薬は細菌感染症の治療薬」ということと、米国小児科学会(AAP)と疾病予防センター(CDC)の資料にある「不必要な抗菌薬は有害」という認識である。以下、基本方針を解説しながら適正使用の考え方を述べる。

 

1.ウイルス疾患には抗菌薬を投与しない。また二次感染予防のための抗菌薬投与は行わない 

感冒、あるいは咽頭炎、扁桃炎、気管支炎などはほとんどがウイルスによって起こることが知られている。それにもかかわらず多数の医師が初診時から抗菌薬を処方している4)。 

その理由として症状、所見からでは細菌感染を否定できない、二次感染を予防する、重症感染症の予防などがあげられている4)。しかし、詳細な病歴の聴取と鼓膜、鼻腔を含めた丁寧な診察、溶連菌やアデノウイルスなどの迅速診断キット、自動血球計算やしいCRT定量測定の機器を用いれば、細菌感染かどうかを相当程度に絞り込むことは可能である。 

細菌感染の明らかな根拠なしに抗菌薬を処方するべきではない。このような診察や検査を行ってもなお細菌かウイルスか明らかにできないのであれば、患者の重症度がないかぎり注意深く経過観察をするという選択肢をとるべきと思われる。また、医師の中には患者が夜中に耳が痛いと訴えたら、あるいは肺炎を起こしたらと心配して抗菌薬を処方する場合も少なくないと思われる。しかし、抗菌薬の投与は二次感染の合併を予防しえないことが明らかにされている6)。このような場合、上気道炎に中耳炎はよく合併するものであり、耳痛を訴えたら鎮痛薬を投与すればよいこと、また高熱や咳が続く場合は肺炎の疑いがあり、診断を確定してから治療しても手遅れにならないことなど、病気の見通しや起こり得るか、青、その対応等についてあらかじめ10分説明すれば保護者の不安は大幅に軽減されると思われる。

 

2 .感染の会議は疑われても、重篤な合併症のリスクが低く自然治療が期待できる場合には抗菌薬は使用しない 

急性中耳炎、副鼻腔炎は上気道炎の二次感染症として起こることが多く、わが国では当然のように抗菌薬が処方されている。しかし、前者についてはオランダの耳鼻科医、van Buchemらが抗菌薬投与群、抗菌薬+鼓膜切開群、鼓膜切開群、 無治療群の4群による無作為比較試験を行い、短期的、長期的予後にほとんど差がないことを明らかにした7)。オランダでは、このような臨床研究をもとに抗菌薬の使用を制限するガイドラインを実施している。筆者らのガイドラインもこれに準拠しており、 48~72時間は対症療法で経過をみることを基本としている。 

急性副鼻腔炎は上気道炎に普通に合併し、大部分はウイルスによって起こるものであり、抗菌薬の投与なしに自然に軽快することが知られている。咳、鼻汁なとの上気道炎症状が10~14日以上続く場合を、10day markとし、欧米では細菌性副鼻腔炎の重要な指標としている。Garbuttらはこの診断基準で選んだ急性副鼻腔炎の患者に対し、アモキシシリン群、アモキシシリン+クラブラン酸カリウム群、プラセボ群の3群について無作為比較試験を行った結果、抗菌薬の効果は認められなかったと報告している8)。 

これが頻度の多い二次感染症について一律に抗菌薬を処方するのではなく、重症感がなければ患者、あるいは保護者に抗菌薬による耐性菌増加の不利を説明し、対症療法のみで注意深く観察することも選択肢となる。また、あらかじめ抗菌薬を処方しておき、 2~3日の経過観察で症状の軽快、消失が得られないとき服用するよう指示することも、保護者に安心を与える上で有用と思われる。

 

3.菌感染の証拠があり、抗菌薬による治療の有効性が認められている場合には抗菌薬を使用する 

咽頭炎、扁桃炎の大部分はウイルス感染によるものだが、 一部にA群B溶連菌感染があり抗菌薬が必要になる。熟練すれば症状、所見から診断は可能となるが、抗菌薬を投与するときは迅速診断キットで確かめることが必要である。本疾患は家族内感染が多く、抗菌薬の予防服用を勧める医師も多い。しかし、このことは不必要な抗菌薬の投与を招くことになり勧められない。患者、保護者にあらかじめ家族内感染があることを説明し、発熱、咽頭痛を訴えたら受診するよう説明しておくことが十分と思われる。 

上気道炎関連疾患のなかには、急性喉頭蓋炎、咽後膿瘍 、扁桃周囲膿瘍の細菌性疾患がある。このような疾患は診断や治療の遅れが重篤な結果を招くので、注意深く診察と検査を行い、疑われたらただちに十分な治療ができる医療機関に紹介することが望ましい。

 

4.発熱があり検査所見などで重症細菌感染症のリスクが高いと判断された場合には抗菌薬の使用は認められる 

小児科外来に高熱で受診する乳幼児の中にまれながら重症感染症の患者がおり、これに対する不安や懸念が抗菌薬過剰使用の一因になっている4)。実際にoccult bacteremia という病態があり、これは発熱を主な症状として全身状態の悪化がないのに血液培養で菌が検出される場合をいう。米国では、 3~36ヶ月の原因不明の39度以上の発熱の患者において5%程度に認められると報告されている。主な起炎菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌で、その5~15%は化膿性髄膜炎、肺炎、関節炎、急性喉頭蓋炎、骨髄炎に進展する。また、直腸温40度以上、白血球数15,000\ul 以上で頻度が高くなることも明らかにされた9) 。 

これは米国で30年も前から問題になっていたが、最近までわが国においてこの病態の存在は明らかではなかった。西村らは1年間にわたる小児科クリニックでの調査を行い、わが国でも米国と同じ頻度で起きていることを明らかにした10) 。 

筆者らは耐性菌の蔓延を防ぐだけではなく、外来におけるリスク管理という観点も重要と考え、ガイドラインにこの病態を対象とする「フォーカス不明の発熱」の項目を設けた。

 

5.細菌性疾患に経口抗菌薬を使う場合は可能なかぎり狭域スペクトルの抗菌薬を第1選択薬とする 

わが国の小児科外来においては、味がよい、抗菌力が強い、抗菌域が広いという理由でセフェム系経口抗菌薬が好んで用いられている。筆者らの調査でも、処方された抗菌薬の約50%はセフェム系であった4)。 

しかし、この系統の薬剤は吸収に個人差があり、血中濃度の上昇や組織への移行が悪いという欠点があり、経口抗菌薬としては必ずしも優れていない。それにもかかわらず、わが国ではあまりにも容易に、しかも 

大量に使用されたため、今日にみる耐性菌蔓延の状況が出現した。 

ガイドラインでは抗菌薬を使用する場合、できるだけ抗菌域の狭い薬剤、具体的にはペニシリン系内服液を第一選択薬として推奨している。溶連菌感染による咽頭炎、返答に対しては、ベンジルペニシリン現在今、または編年史ちぃseleneカリウムを進める。服薬のコンプライアンスもよく効果も速やかにある。 

他の疾患に対してはアモキシシリンを推奨する。本薬剤は通常量の内服で血中濃度が5ug/ml 以上になり、呼吸器感染症患者から分離された肺炎球菌の95%以上、またインフルエンザ菌の80%以上の最小発育阻止濃度を上回り11.12)、小児呼吸器感染症の第1選択薬として優れた条件を備えている。実際に日常の診療で適応を十分吟味すれば、多くの患者で良好な治療成績が得られる。また、本薬剤を第1選択薬とすることによって増加した耐性菌を再び減らせる可能性が示されている。武内は小豆島で上気道炎に対する一律のセフェム系抗菌薬の投与を中止し、ペニシリン系経口抗菌薬を導入し、 投与の適応を厳密にしたところ耐性菌が著しく減少したと報告した3)。林らは北海道根室市においてアモキシシリンを第1選択とし、セフェム系抗菌薬の処方を減らしたところ、耐性肺炎球菌が減少したと報告している13)。

 

まとめ 

抗菌薬適正使用のためには、不必要な抗菌薬は有害であるという認識をもち、抗菌薬の代わりに情報を提供するという方針が何より重要と思われる。

謝辞:本稿をまとめるにあたり多大な支援と協力いただいた抗菌薬適正使用ワーキンググループの武内一先生、西村龍夫先生、深澤満先生、吉田均先生に深謝します。

 

 

文献 

1)島田甚五郎、他:Faropenemを含む各種抗菌薬に対する臨床分離株の薬剤感受性調査、日本化学療法学会雑誌51:680-692、2003

2)砂川慶介、他:化膿性髄膜炎・全国サーベイランス速報No.4-2年間のまとめ、北里大学医学部感染症学講座、2003

3)武内一:抗生物質を使用しなければ、小児医療における耐性菌は確実に減少する。外来小児科2:51-56、1999

4)草刈章、他:小児科外来における上気道炎診療調査ー発病72時間以内の初診患者に対する抗菌薬使用状況、外来小児科7:122-127、2004

5)吉田均、他:小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドラインー私たちの提案、外来小児科8:146-173、2005、http://www004.upp.so-net.ne.jp/ped-GL/GL1.html

6)Lexomboon U,et al:Evaluation of orally administered antibiotics for treatment of upper respiratory infections in Thai children.J Pediatr 78:772-778、1971

7)van Buchem FL,et al:Therapy of acute otitismedia:myringotomy.antibiotics.or neither? Adouble-blind study in children.Lancet 2:883-887、1981

8)Garbutt JM,et al:A randomized,placebocontrolled trial of antimicrobial treatment for children with clinically diagnosed acute sinusitis.Pediatrics 107:619-625、2001

9)Bass JW,et al:Antimicrobial treatment of occult bacteremia:a multicenter cooperative study.Pediatr Infect Dis J12:466-473、1993

10)西村龍夫、他:小児科開業医で経験したoccultbacteremia23例の臨床的検討、日本小児科学会雑誌109:623-629、2005

11)生方公子、他:本邦において1998年から2000年の間に分離されたS.pneumoniaeの分子疫学解析 日本化学療法学会雑誌51:60-70、2003

12)生方公子、他:本邦において1998年から2000年の間に分離されたH.influenzaeの分子疫学解析 日本化学療法学会雑誌50:794-804、2002

13)林達哉:小児の上気道炎ー薬剤耐性菌は減らせるか、感染と抗菌薬6:379-385、2003