小児科外来における電子カルテ WYNE STYLEの運用

筆者は2002年10月以来、電子カルテを運用して3年ほどになりますが、この経験をもとに電子カルテに興味を持ち、これから導入を検討されている医師のために、先駆的な電子カルテソフト、WINE STYLEについて開発の歴史と理念、当院の運用状況、ソフトの機能と特徴、販売と支援体制について報告したいと思います。

 

Ⅰ 電子カルテWINE STYLEの開発の歴史と基本理念 

本ソフトは鎌倉市佐藤病院小児科医、高橋究氏によって開発され、バージョンアップされてきました。その開発の歴史と基本理念をWINE STYLEのホームページ1)から引用し紹介します。 

高橋氏はカルテの山と格闘するうちに、なんとか処方箋だけでもコンピュータを使って作成できないかと思ったのが電子カルテの開発のきっかけであり、 1992年から1996年までに担当する小児科と透析患者の診断を支援する電子カルテを作成しました。1996年10月から佐藤病院が全科で電子カルテを使うことになり、そのためのデータベースの選択やソフトの書き直し、システムダウンへの対応と、新たな電子カルテソフトを創出するためのノウハウが蓄積されました。 

MacOSX Serverが出現して電子カルテは実用域に達し、関心ある医師から高く評価されるようになったため、希望者にWINE Version1としてサポートなし、ダウンロード無料、ライセンスの発行19,800円という設定で提供されました。しかし、ダウンロードはしたもののインストールできない、インストールしても設定が難しくて先に進まないというユーザーがほとんどで、電子カルテのような複雑なシステムは、サポートがないと実用にならないということが判明しました。 

2002年、高橋氏のもとにシステム開発や情報処理のエンジニアが集まり、Wineの商品化を目的とするプロジェクトが開始されました。そして2002年8月、商品版WINE STYLEが完成し販売されることになりました。 

以上のようにWINE STYLEは小児科医の高橋究氏が着想してから開発、改良と一貫して主導してきた電子カルテソフトであり、氏の基本的な考え方が色濃く反映されています。この基本理念は氏の言葉をそのまま借りて表現したほうが良いでしょう。 「スポーツカーのようにレスポンスが良く、美しく、故障も少なく、維持費もそれほどかからない。しかし、楽しく、気持ちがよい車。そんな風にWINE STYLEを仕上げていきたいと思っています」

 

Ⅱ 当院の電子カルテ導入の経緯と運用状況 

筆者は、当院を開業した1987年に電子カルテによる診療を考えました。しかし、当時は実用に耐えるソフト、ハードもなく、診療所工事の際に将来の導入に備えて診察室と事務室の間にLAN用ケーブルを設置するだけにとどめざるをえませんでした。これは今回の導入では大変役立ちました。 2000年、電子情報エンジニアの山口氏と知り合い、電子カルテ導入支援の契約を交わしました。当初、自作することも視野にいれ各種の電子カルテソフトを検討しましたが、高橋究氏のWineが以下の点で大変優れていることが分かりました。すなわち、 ①対応するOSが安定したUNIX系であり、オープンソースであること。 

②データベースソフト(OpenBase)注1)がセキュリティ、処理速度の点でほかのものよりよい。③電子カルテソフトとレセコンソフトが分離している。 ④完全なカスタマイズが可能。 ⑤MML注2)でほかのソフトと情報交換が可能。 ⑥拡張性、発展性があるということです。 

2001年11月、Wineの導入を決定しましたが、先述したように運用マニュアルや導入支援の体制もなく、手探りでカスタマイズの作業を行わざるを得ず、大変な時間と手間がかかりました。現在は商品版WINE STYLEに切り替わり、運用マニュアルや支援体制の設備も進み、導入環境は格段に改善されています。 

2002年10月から運用を開始しましたが、当初は誤操作やハード、ソフトの不具合などでシステムダウンがたびたびありましたが、あらたにカルテ処理専用のクライアントパソコン、 Mac G5を導入し、従来のG4をサーバー専用としてからその頻度は大変少なくなりました。 

また当初から日医の開発したレセコンソフトORCA注3)との接続運用を目指しており、 2003年6月から試みましたが、ORCA、Wine双方にソフトの不具合がありうまくデータが流れませんでした。その後改良が進み2004年7月からORCAのサポート業者の支援を受けるようになってから会計処理がうまく行くようになり、 11月からレセプトを出すことができるようになりました。現在当院では予防接種者を含め、一日80~120人の診療、および毎月700~1000枚のレセプト発行を行い、システムはともに順調に稼働しています。今年11月、さらに改良されたWINE STYLE Version2.5 v430がリリースされ、ORCAとの連動はさらに円滑となりました。

注1) OpenBaseは1991年から販売され、OracleやSybaseなどと同様の本格的なリレーショナルデータベースであり、広範囲の業種での幅広い使用状況に対して対応可能である。一テーブルあたり100万レコード程度以下であれば、Oracleと同様かそれ以上のパフォーマンスを発揮され、実例としては、世界の主要な航空会社と空港を網羅して発着状態を知らせてくれるFlightArrivals.comでも採用されている2)。 

注2) MMLはMedical Markup Languageの略、異なる医療機関(電子カルテシステム)の間で、診療データを正しく交換するために考えられた規格、電子カルテシステムの多様性を保証したうえで施設ごとの独自性を保ちながら、全国の医療機関とデータの交換が可能になる3)。 

注3)日本医師会が医療現場のIT化を進める一環として、各医療現場に標準化されたオンライン診療レセプトシステムを導入し、互換性のある医療情報をやりとりできるようにする計画(Online Receipt Computer Advantage :ORCA)。このために開発したプログラムやデータベースはすべて無償で公開され、医療現場の事務の効率化とコスト軽減を図ると同時に、誰もが自由に利用できる解放的なネットワークを形成し、国民に高度で良質な医療を提供することを目指している4)。

 

Ⅲ 電子カルテ WINE STYLEの基本機能と特徴 

開発者の高橋究氏はWINE STYLEを高性能のエンジンを積んだスポーツカーにたとえていますが、筆者にはエンジンと車台を購入し、自分好みでボディを造り上げる手作りのスポーツカーという印象です。自分の診療の理念やスタイルを完全に実現できる電子カルテソフト、それがもっとも大きな特徴といえます。複数の医師がいる病院でも、個々の医師の診療スタイルにあったカスタマイズが可能であり、一日150人程度の診療に十分対応できます。

WINE STYLEは診療所から200床未満の病院までの外来診療に対応可能な電子カルテシステムで、Macintosh版はMac OS10.2以上、またWindows版はWindows2000のOSで作動します。 

本ソフトは厚生労働省が診療録などの電子媒体保存に義務づける要件、真正性、見読性、保存性5)を完全にクリアしています。真正性の確保は電子カルテのもっとも重要な要件ですが、本ソフトでは午前零時を過ぎると一切のデータの書き換えが不可能になります。また誰かがいつ入力したかも電子的に詳しく記録されることになっています。 

見読性についてもいくつかの工夫がなされています。通常の紙カルテのように、二号紙入力内容(症状や所見など)や処方、処置が一覧表示され、入力日時の順番で任意の箇所をスクロールできるようになっています。そしてこれをそのまま印刷可能で、普通の紙カルテと同じものを作成できます。また二号紙記載内容の最初の行を時系列的に一覧表示可能で、素早くかこの診療内容をチェックできます。 

保存性については自動バックアップシステムや随時CDRへの保存法などが用意されています。しかし、これだけでは地震や水害など医療機関などが壊滅的な被害を受けるような場合のデータ保存の脆弱性は免れません。遠隔地への自動データ保存システムの開発が待たれます。 

本ソフトのもっとも優れた特質はMMLによってほかの電子カルテソフトとの情報の交互が可能だということです。政府は2001年、e-Japan戦略を策定し、医療、行政、生活のさまざまな分野における高度な情報化社会の実現を目指していますが6)、その大きな目標に医療における電子カルテ推進があります。現在50を超えるさまざまなソフトがあり、開発にしのぎを削り優劣を競っています。遠くない将来、これらの異なったソフトを採用している医療機関の間で患者データの遣り取りが行われる時代がきます。そのときにMMl対応のシステムどうしであれば情報の交互が円滑に行われます。また、一つの医療機関においても、新たなソフトに切り替えるときに患者のデータの移植がスムーズに行われるようになります。将来の発展性、拡張性が保障されたソフトといえます。 

本ソフトは日本医師会が開発したレセコンソフト、ORCAとCLAIM注4)を介して完全に接続できます。WINE STYLEもそれ自身、CLAIMによる診療費計算機能を持っています。しかし、これをORCAと接続することによってより安定した会計処理、レセプト発行が可能となります。処方、処置、検査、指導などの医事会計関連項目は、電子カルテに入力した時点で自動的に算定項目として保持され、患者の診療が終了した時点でORCAのパソコンに流れ、診療費が計算されます。処方や検査の追加、あるいは変更などは一部、事務側での手作業による修正入力が必要になることもありますが、大幅な事務作業の軽減になります。またカルテにモニターにORCAの操作画面を表示し、医師自らが会計処理を行うこともでき、大幅な事務作業の省力化、合理化が可能となります。またHL7を介して検査会社のデータを自動的に取り込むことが可能です。図1にこれらの関係を図示します。

注4)CLAIMはClinical Accounting InforMationの略。電子カルテと医事会計システム間のデータ交換をオープン化、標準化し、電子カルテ開発を促進するために、両システム間の電子的データ交換を可能とするフォーマット。電子カルテ側からの診療報酬請求業務(レセプト作成業務)に必要な最低限のデータを医事会計システムに渡せること、請求額などの医事家計処理結果を電子カルテに渡せること、医療情報交換規約(MML)と共通のデータは極力同じ構造とすること、法改定の影響を受けにくい柔軟な構造とすることを設計方針としている8)。

 

Ⅳ 電子カルテ WINE STYLEの運用機能 

本ソフトには診療を快適に、また手際よく進めるためのさまざまな機能が搭載されています。筆者はそれらをすべて使いこなしているわけではありませんが、非常に便利にしているものについて紹介します。

ワードパネル入力

本ソフトの機能性をもっとも特色づけるのは、このワードパネルです。図2に示すように頻用する病名、所見、術語、診療内容、検査項目、処置内容、定型文章などをあらかじめ格子状のパネルに登録しておき、該当するパネルのワンクリックでカルテ2号紙に記録するとともに、検査や処置などの会計項目は自動算定できるというものす。このパネルは診察や処置、検査、予防接種などの分野ごとに複数のページを作成できます。またパネルの編集や内容の変更なども患者の診療中に簡単に行えます。短時間に正確で情報量の多い診療録の作成が可能になります。

薬剤の処方

薬の処方にも複数の方法が用意されています。汎用する処方は処方パネルなどに登録しておき、クリック操作で入力できます。体重に応じた投与量や年齢による微妙なさじ加減も設定できます。約束処方の登録やdo処方もクリック&ドラッグで簡単に入力できます。薬剤の投与量や副作用などの情報を簡単な操作で参照できます。

医療文書作成機能

診断書や証明書など、二号紙の内容をそのままコピー&ドラッグで入力、あるいはワードパネルからのクリック入力で迅速に作成することが可能です。

複数カルテの同時展開、および入力

外来では一人、または複数の患者の処置、あるいは検査を待つために診察を一時保留して次の患者の診察にかかるということはよくあります。本ソフトはこのような状況に完全に対応できます。モニター上に会計処理を保留している複数のカルテを展開しながら、別の患者のカルテの症状、所見、検査を入力し会計を処理することが可能です。

検査値の一覧表示、あるいはグラフ化

検査値を時系列的に一覧表示し、また任意の検査項目をグラフ化することが可能です。

成長曲線表示

誕生から6歳までの成長曲線を表示することが可能であり、乳幼児検査に大変役に立ちます。 

そのほかにデジタルの画像取り込みと表示、文書や図画などのスキャン情報の取り込み、患者の疾患別、あるいは治療別の登録、病名や検査、処方などからの患者検索などの電子カルテならではの便利な機能が搭載されています。

 

Ⅴ 電子カルテ WINE STYLEの販売、サポート、および費用 

本ソフトを導入している医療機関は全国で60数件を数えるのみでまだ少数派ですが、ユーザーからはデザインと使い勝手のよさ、処理の速さ(小児科では1時間15~30人)と正確さから熱い信頼が寄せられています。開発とバージョンアップは高橋氏が代表を務める(有)キワム電脳工務店と㈱サン・ジャパンが行っています。ソフトの購入とインストール、運用のための環境設定には販売と支援の業者に依頼することが必要です。表1に業者の連絡先を示します。 

ORCAとの接続、および運用にはサポート事業者の支援を受ける必要がありますが、これはWineの支援事業者とよく相談する必要があります。筆者の診療所ではそれぞれの業者からVPN注5)で支援を受けるようになっており、コストと時間の大幅な省力になっています。導入の費用は診療所、病院の条件で異なりますが11)、医師一人の診療所の場合、ハード、ソフト、環境設定を含めておおよその目安として電子カルテとORCAの接続で役400万円、毎月の維持、支援費用はカルテが3~6万円、ORCAのは毎月12,000円です。

注5)Virtual Private Network:仮想プライベートネットワーク、特別な装置で医療機関と支援事業所のパソコンを仮想の専用回線で接続し、リアルタイムの情報交換を可能とするもの。事業諸のパソコンで診療所のパソコンを操作でき、人の派遣を必要としないため安い費用で随時のサポート受けられる。

まとめ 

電子カルテWINE STYLEは操作性にすぐれ診療が楽しくなるソフトです。また自分の診療スタイルや診療科に合致するよう十分なカスタマイズ可能です。また本シリーズ初めに指摘された電子カルテに求められる諸条件をほぼ満たしているといえます。是非、多くの医師に試していただけることを願っています。

 

 

(参考文献、URL) 

1)有限会社キワム電脳工務店(http://www.kiwamu-dennou.co.jp/cgi-bin/WebObjects/KiwaDenn)

2)OpenBase SQL9.1(http://store.openbase.com/index.html)

3)What is MML(http://www.medxml.net/WhatlsMML/default.html)

4)日医標準レセプトソフト(http://www.jma-receipt.jp/about/index.html)

5)厚生省健康政策局長:「診療録等の電子媒体による保存について」健政発第517号、平成11年4月22日。(http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1104/h0423-1_10.html)

6)首相官邸:高度情報通信ネットワーク社会推進戦略(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/)

7)アップルコンピューター㈱:レセプトと連動したシステムが組めるMacOS X専用カルテ「WINE STYLE」を使い続ける理由とは(http://www.apple.com/jp/articles/medical/kerte/)

8)荒木賢二、他:医事会計-電子カルテ連携のための交換フォーマット(CLAIM)の開発(http://www.medxml.net/claim/CLAIM.html)

9)㈱サン・ジャパン(http://www.sunjapan.co.jp/step/wine/product/index.html)

10)㈱サン・ジャパン(http://www.sunjapan.co.jp/step/wine/aggency/index.html)

11)㈱サン・ジャパン(http://www.sunjapan.co.jp/step/wine/product/price.html)

くさかり小児科

kusakari akira Akira Kusakari

1949(昭和24)年6月2日、山形県米沢市生まれ。山形県立米沢興譲館高校、福島県立医科大学卒業後、東北大学大学医学部付属病院小児科にて研修。会津若松市竹田総合病院小児科、都立清瀬小児病院小児科の小児科医を経て「医療法人社団 章仁会 くさかり小児科(昭和62年2月)」を設立し、現在理事長を務める。小児科一筋の経験豊富な小児科専門医。