上気道炎・中耳炎に対する抗菌薬の使い方

- 特に溶連菌、中耳炎、不明熱について -
point

ウイルス疾患には治療、あるいは二次感染予防の目的で抗菌薬投与は行わない。

細菌感染の関与が疑われても、重篤な合併症のリスクが低く自然治療が期待できる場合には、抗菌薬は使用しない。

細菌感染の証拠があり、抗菌薬による治療の有効性が認められている場合には、抗菌薬を使用する。

発熱があり、検査所見なとで重篤細菌感染症のリスクが高いと判断された場合、抗菌薬の使用は認められる。

細菌性疾患に経口抗菌薬を使う場合は、可能な限り狭域スペクトルの抗菌薬を第一選択薬とする1)。

 

Q. 上気道炎の二次感染予防の抗菌薬の使い方について教えてください

A 1. 必要性 

この目的のための抗菌薬処方は必要ありません。上気道炎の原因のほとんどがウイルスであり、溶連菌感染による急性咽頭・扁桃炎を除いて抗菌薬の投与は必要としません。しかし実際には、かつては多くの医師が普通に上気道炎の患者に抗菌薬を処方していました。その理由は、細菌感染との鑑別困難、二次感染予防というものです2)。結果として、過剰に抗菌薬が処方され、耐性菌の蔓延をもたらしました。抗菌薬の投与が二次感染の予防、あるいは経過の改善に寄与しないことは、多くのランダム化比較試験で明らかにされています3)。

A 2. 予告 

二次感染は予防できません。あらかじめ、中耳炎、肺炎などは上気道炎によく合併すると告げればよいのです。「風邪には中耳炎はよく合併します。耳の痛みを訴えたら痛み止めを飲ませてください」、「熱が5日間以上続けば肺炎の心配があります。その時はX線検査をしましょう」と、具体的に起こり得ることとその対応法を伝えておきます。

A 3. 確認して治療 

上気道炎に合併する急性中耳炎、副鼻腔炎などの二次感染は、多くの場合抗菌薬を処方せずとも自然に治療します。肺炎も血液、X線検査で診断を確定してから治療しても手遅れになることはありません。

A 4. 抗菌薬使用状況 

外来小児科ワーキンググループは、2002年と2007年に日本外来小児科学会の会員を対象として、発熱37.5℃以上、咳、鼻汁、咽頭痛の一つ以上の症状を訴えて受診した20人の患者について、抗菌薬使用状況を調査しました。そして、この5年間に抗菌薬使用が大幅に減少したことを明らかにしました4)。

 

Q. 溶連菌による咽頭・扁桃炎に対する抗菌薬の使い方について教えてください

A 1. 咽頭・扁桃炎の病因 

小児の急性咽頭炎、扁桃炎の病原体の多くはウイルスです。抗菌薬の適用となるA群B溶連菌(以下、溶連菌)は、15~20%程度であり、一律の抗菌薬処方は行う必要はありません。武内らは、37.5℃の発熱を伴う急性扁桃炎の患児149例についてウイルス、および細菌の分離、発熱期間、白血球数、好中球数、CRP値について精細に検討し、病原体の大部分はウイルス(44.3%)によるものであり、検出された細菌では溶連菌(16.8%)以外に原因病原体としての意義はないと結論しています5)。

A 2. 診断 

原則として培養、あるいは迅速抗原検査に基づいて行われるべきですが、典型的な皮疹や咽頭・扁桃所見、流行歴、家族歴などが認められる場合には、臨床診断もできます。偽膜を伴う扁桃炎は、アデノウイルスやEBウイルスであることも多く、臨床診断の根拠にはなりません。

A 3. 治療 

バイシリンG顆粒R40万単位(1回2~3万U/kg上限150万単位、1日2回、10日間)が第一選択となります。散剤が苦手という患児にはカプセル、あるいは錠剤のアモキシシリン(1回250~500mg、1日3回、10日間)を用います。B-ラクタム薬に対してアレルギーがある場合は、エリスロマイシン(1回10~15mg/kg、1日3回、10日間)を用います。

A 4. 無効例、再発例への対応 

抗菌薬の投与に反応しない場合には、アデノウイルスやEBウイルスなどの混合感染の可能性があります。血液検査や迅速抗原検査でその可能性が高いと判断される場合は抗菌薬を中止し、経過をみます。稀ながら、明らかな溶連菌による扁桃炎でも、ペニシリンに反応しない例や治療終了後すぐに再発する例もあります。そのような場合には、MoraxellacatarrhalisなどのB-ラクタマーゼ産生菌などの共生、あるいはバイオフィルム形成などにより、抗菌薬の効果が減弱しているものと思われます。筆者はそのような場合、B-ラクタマーゼ阻害薬とABPCとの合剤ユナシンR(1回5~10mg/kg、1日3回、10日間)を処方します。

 

~ ここだけは気をつけたい ピットフォール ~ 

▼咽後膿瘍と扁桃周囲膿瘍 

発熱、咽頭痛を訴えてくる患児には、稀ながら上記の2疾患があります。 

強力な抗菌薬治療に加え、切開排膿などの治療が必要になることもあり、入院加療が必須です。頸部の痛みが強い、首を動かせない、不自然に傾ける、嚥下障害や呼吸困難などを伴う時は、その可能性が強くなります。診断にはCTあるいはMRI検査が有用です。

 

~ TOPICS ~ 

■PFAPA症候群 

稀ながら、発熱と咽頭・扁桃炎を頻回に繰返す患児がいます。この中に、自己炎症性疾患の一つのperiodic fever,aphthous stomatitis,pharyngitis,and adenitis(PFAPA)症候群があります。周期的に4~5日続く39℃以上の発熱を繰返し、アフタ性口内炎、咽頭・扁桃炎、頸部リンパ節腫腸なども伴います。白血球増加CRP値上昇を示しますが、咽頭や血液培養では有意な菌は検出されません。ステロイドの投与が極めて有効で、急速に解熱治療します。

 

Q. 急性中耳炎に対する抗菌薬の使い方について教えてください

A 1. 病因 

以前は「急性中耳炎=細菌感染症」と考えられて、すべてが抗菌薬の適応と考えられていました。しかし、北欧のRuoholaらの中耳貯留液の培養やPCRを用いた研究では、多くのウイルスと細菌の混合感染(66%)で起こり、細菌単独で起こるのは4分の1程度(27%)ということがわかってきました6)。細菌では従来から指摘されてきたように、肺炎球菌(49%)、インフルエンザ菌(29%)、モラキセラ・カタラーリス菌(28%)が主要起炎菌であることが確認されました。ウイルスは70%の患児から検出され、Picornavirusが最も多く41%、次いでRhinovirus(20%)、RSV(14%)、Piconavirus(11%)、Enterovirus(10%)など、上気道炎の原因になるほとんどのウイルスが検出されました。これらの細菌とウイルスのさまざまな組合せで急性中耳炎の臨床像はつくられているのであり、単純に強力な抗菌薬を投与すれば必ず治癒できるというもではないといえます。すなわち、抗菌薬の処方にあたっては適応を慎重に吟味する必要があり、ここには外来小児科ワーキンググループの診療をチャート図にします7)。 

A 2. 診断基準 

急性の耳漏が認められる場合、あるいは耳に貯留液を認め、かつ急性感染の症状、あるいは所見が一つ以上認められる場合とします。急性感染症の症状とは耳痛(乳児では涕泣、不機嫌、耳を触るなど)、所見としては鼓膜の明らかな発赤、強い膨隆、あるいは水疱、膿疱形成です。また高熱を伴っている場合、higjt risk群として菌血症の合併の可能性もあり、血液検査が必要です。

A 3. 治療 

急性中耳炎は、多くの患児で抗菌薬なしに自然治療することがわかってきました。耐性菌の蔓延を防ぐためにも抗菌薬の適応を注意深く検討し、不必要な抗菌薬の処方を避けることが重要です。高熱を伴わないlow risk群の場合、鎮痛薬のみで2~3日経過を観察します。症状の持続、あるいは増悪がある場合に抗菌約を処方します。 

治療にはAMPC、60mg/kg/day、5日間を推奨します。投与開始後48時間以内に症状の軽快がなければ90mg/kgまで増量するか、B-ラクタマーゼ阻害薬との合剤(オーグメンチンR配合剤、クラバモックスR小児用ドライシロップ)あるいは経静脈投与に変更します。一般的に、経口のセフェム系抗菌薬は血中濃度の上昇が安定せず、また中耳貯留液への移行も悪いため推奨できません。上記の治療によっても軽快しない場合、鼓膜切開の適応の検討や乳様突起炎合併の懸念もあり、耳鼻科へ紹介する必要があります。

A 4. 経過観察 

耳痛、発熱、耳漏などの症状が消失していれば、鼓膜所見の改善がなくても軽快とします。7日後に貯留液が残存していても鼓膜の発赤や膨隆などの所見が消失していれば、初期治療とします。その後14日、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月後に診察し、なお貯留液が残存していれば聴力の評価を含め、耳鼻科医へ紹介します。

 

Q. 高熱の患児にはどのように対応すべきでしょうか?

A 1. 重症細菌感染症の鑑別 

小児科外来を受診する高熱の患児の大部分はウイルス感染症ですが、稀に肺炎や菌血症、髄膜炎などの重症細菌感染症があります。このような患児を見逃さないことが、外来医療に携わる医師の最も重要な仕事といえます。そのためには詳しい問診、丁寧な診察に加え、必要に応じて血液、尿、迅速抗原検査を行い、確かな所見に元ずく診断、そして治療を行うことが何より重要です。見逃しを防ぐには、常に一定の手順に沿った診療を行うことが必要です8)。

 A 2. フォーカス不明熱患者への対応 

診察や迅速抗原検査などで発熱の原因を特定できない場合を、フォーカス不明の発熱といいます。意識障害やチアノーゼなど、全身状態が悪い場合はただちに入院加療とします。一般状態が良ければ抗菌薬を投与せずに経過観察としますが、3歳未満の乳幼児では、インフルエンザ菌b型(Hib)、PCV7のワクチン接種の有無により対応が分かれます。 

未接種者は細菌性髄膜炎や後述の潜在性菌血症(occult bacteremia :OB)の可能性があるため、血液検査が必要となりますが、この時微量採血で血液一般、白血球3分画(顆粒球、単球、リンパ球)、CRPの検査が同時にできる機器(例:堀場製作所MicrosemiLC-667CRP)が便利です。月齢、体温、白血球数などで重症細菌感染症の可能性が高いと判断されれば血液培養を行ったうえ、セフトリアキソン〔CTRX(ロセフィンR)〕50mg/kgの静脈内投与、あるいはAMPC60mg/kg/dayの経口投与を行います。その後の治療は経過、および血液培養の結果で決めます8)。 

接種者はその可能性が低いため、さらに慎重な経過観察を続けます。症状が持続、あるいは悪化する場合は血液検査を行います。

A 3. アデノウイルス感染所の確認 

本ウイルスでも高熱、2~3万/uL以上の白血球増多、5mg/dL以上のCRP値上昇を示すことも少なく、抗菌薬を投与する前に、必ず迅速検査でその有無を確認します。陽性が確認されたら原則として抗菌薬の投与は必要ありません。

A 4. 潜在性菌血症(OB) 

本疾患は発熱を主な症状とする菌血症で、ときに感冒症状や中耳炎を伴いますが、明らかな局所感染症状や全身状態の極度の悪化はないものと定義されています。我が国では長らく認識されていませんでしたが、最近になってその実態が明らかにされました9)。 

その臨床的特長は...

・5~15%に細菌性髄膜炎や肺炎、急性喉頭蓋炎、化膿性関節炎、骨髄炎などのより重症の局所感染症を続発する

・不明熱の患者で年齢が低いほど、体温や白血球数、好中球数、CRP値が高いほど頻度が高くなる。米国の報告では3~36ヶ月、体温40℃以上、あるいは39.5℃以上で白血球数15.000以上の時、血液培養した患者の約12%に有意な菌が検出された 

・起炎菌の約80%は肺炎球菌、約10%はHibであり、その他に黄色ブドウ菌、溶連菌、サルモネラ菌なども原因になりうる 

・Hibワクチンの接種によりHibによるOBの100%、PCV7の接種により肺炎球菌によるOBの約70%は予防できる

です。不明熱の診療にあたっては本症を念頭において検査、治療を行うことが重要です。

 


文献 

1)抗菌薬適正使用ワーキンググループ:小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン ―私たちの提案― http://www004.upp.so-net.ne.jp/ped-GL/GL1.htm

2)草刈章 他:小児科外来における上気道炎診療調査 ―発病72時間以内の初診患者に対する抗菌薬使用状況―。外来小児科7:122-127、2004

3)Dowell SF et al:Appropriate use of antibiotics for URIs in children :Part Ⅱ.Cough,pharyngitis and the common cold.Am Family Physician58:1335-1342、1998

4)吉田均 他:小児科外来における上気道炎患者への抗菌薬使用状況再調査。外来小児科12:2-8、2009

5)武内一 他:扁桃咽頭炎における検出ウイルスと細菌の原因病原体としての意義、日児誌113:694-700、2009

6)Ruohola A et al:Microbiology of acute otitis media in children with tympanostomy tubes:Prevalences of bacteria and viruses.Clinical Infectious Diseases43:1417-1422、2006

7)深澤満:急性中耳炎。“小児科臨床ピクシス20かぜ症候群と合併症”中山書店、pp76-81、2010

8)西村龍夫:フォーカス不明の発熱、菌血症。“小児科臨床ピクシス20かぜ症候群と合併症”中山書店、pp176-179、2010

8)西村龍夫 他:小児科開業医で経験したoccult bacteremia23例の臨床的検討。日児誌109:623-629、2005